極端な気象現象から科学的進歩まで
1925年初頭、アラスカのゴールド・ラッシュの町ノームでは、ジフテリアの大流行により全住民が死滅する恐れがあった。抗毒素が手元になかったため、切実に必要とされていた薬を、米国で最も過酷な荒野を犬ぞりで運んでもらうというアイデアが提案された。その後に起こった出来事は、米国史上最も英雄的で感動的なエピソードの一つとして今も語り継がれている。
では、血清は無事に引き渡されたのか？このギャラリーをクリックしてノーム血清走行（またはザ・グレート・レース・オブ・マーシー）として知られるようになったこのリレーについてさらに詳しく見てみよう。
イヌピアットとして知られるアラスカ原住民は、自分達の住むノームをシトナスアクと呼んでいた。イヌピアットは、アラスカとカナダの北海岸からグリーンランドまで広がるイヌイット文化の一員である。アラスカの西海岸は、何千年もの間、彼らの狩猟場となってきた。
19世紀のノームは、イヌピアット族がキャンプを張る不毛の砂地でしかなかった。その後、1898年の夏、小川沿いで金鉱夫たちが金を発見し、さらに数十のテントが建てられた。
1899年までに、ノームビーチは、一攫千金を夢見る何千人もの開拓者や住民で溢れていた。テント村は、ケープ・ロドニーからケープ・ノームまで30マイル（48キロメートル）にわたって広がった。
わずか7年で、テントは住宅に取って代わられた。ノームは商店、学校、酒場、教会、病院、郵便局のある活気ある町になった。電灯工場さえあった。
ノームはすぐに人口10,000人を抱えるアラスカ最大の町に成長した。シアトルとサンフランシスコの港から蒸気船がさらに数千人の人々を運んだ。
ノームのゴールドラッシュは1905年に最高潮に達し、満潮線より上の古い海岸でさらに多くの金が発見された。
間も無く、大企業が新たに設立されたノーム鉱山地区に進出し、町の人口は倍増した。金鉱夫の中には、幸運な掘り出し物が光り輝く金魂の山となり、何百万米ドルも儲けた人もいた。
1909年までにゴールドラッシュは終わり、ノームの人口は3,000人以下に減少し、町は平穏な状態に戻った。1920年代初頭までに、残ったのはヨーロッパ系入植者とイヌピアット族のわずか1,420人だった。
ノームは北極圏の南約2度に位置する。当時、11月から7月にかけて、ベーリング海のスワード半島の南岸にある港は氷に閉ざされ、蒸気船ではアクセスできなかった。
冬の間、世界とつながる唯一の道は、スワード・トゥ・ノーム・トレイルだった。このトレイルは、南のスワード港から広大で過酷なアラスカ内陸部を抜けてノームまで、938マイル（1,510キロメートル）にわたって走っている。このルートは実際、「アイディタロッド・トレイル」としてよく知られている。
1924年12月、ノームで唯一の医師だったカーティス・ウェルチは、数人の子供たちが喉の痛みやリンパ節の腫れを訴えたことに懸念を表明した。彼は幼い患者たちを、最初は扁桃炎と診断して治療した。しかし、患者数が増え、4人の子供が死亡したため、ウェルチは感染力の強いジフテリアと正式に診断した。
1925年1月までに、ウェルチは伝染病が差し迫っていることに気づき、地方議会に報告した。ノームの市長は直ちに検疫を実施した。
1月末までに、ロックダウンにもかかわらず、ジフテリアの症例が20件以上確認され、その多くはイヌピアットの子供たちによるものだった。ウェルチは病院のジフテリア抗毒素の在庫がすべて期限切れになっていることに気付き、愕然とした。抗毒素がなければ、ノームとその周辺地域の住民は深刻な死の危険にさらされることになる。
ノームから約1,000マイル（1,609キロ）離れたアンカレッジには新鮮な抗毒素が備蓄されていたが、過酷な気象条件のため飛行機で運ぶことは不可能だった。
代わりに、アラスカ準州の知事スコット・C・ボーンは、犬ぞりのチームを使って重要な血清を運ぶことは提案した。この命を救うリレーは「ノーム血清走行」もしくは「グレート・レース・オブ・マーシー」として知られるようになった。
犬ぞりはこの地域の伝統的な冬の移動手段だった。しかし、知事が考えていたのは、最も健康な犬と最も経験豊富な犬ぞり乗りのスタミナと決意を試すものだった。この地図は、イディタロッド・トレイルの一部に設定された、緑色でマークされた血清走行ルートを示している。
切実に必要とされている薬を届けるために、20人の犬ぞり乗りと150匹以上の犬が選ばれた。その中には、ノルウェーの犬ぞりの調教師レオンハルト・セッパラもいた。彼の犬チームの先導犬はトーゴだった。
セッパラの助手、グンナーカーセンもリレーに参加した。彼の先導犬はバルトだった。一般に信じられているのとは反対に、どちらの犬もシベリアン・ハスキーではない。むしろ、どちらも現代のチベタン・マスティフ、グリーンランドのそり犬、そしてアラスカの厳しい気候によく適応したベトナムの犬と同じ祖先を持っている。
1925年1月27日、30,000単位の抗毒素が鉄道でリレーの出発地点であるネナナに輸送された。これは伝染病を撲滅するには十分ではなかったが、より大量の輸送物が到着するまで病気の蔓延を遅らせるには十分だった。
犬ぞり乗りと犬ぞりの最初のチームはネナナを出発し、次のチームに引き継ぐ前に強風と-85°F（-65℃）の極寒の気温に直面した。大雪がチーム全員の進行をさらに妨げた。
一方、同じ日、1月27日、セッパラの犬ぞりチームはノームから出発した。セッパラは最終的にシャクトゥーリクの外でヘンリー・イヴァンホフの西行きチームと合流し、血清を受け取った。状況は依然として危険で、低体温症と凍傷の危険は常に存在していた。
セッパラは血清を持って出発し、暗くなってからウンガリックに到着した。ルート沿いに数多くある宿屋のひとつで休憩した後、ノートン湾の露出した氷をものともせず進み、2月1日に血清をチャーリー・オルセンに渡した。
重度の凍傷に苦しんでいたオルセンは、その夜遅くにブラフでグンナー・カーセンと会った。カーセンは出発し、刺すような雪の中、暗闇の中を進み続け、ノームまでの残りの25マイル（40キロメートル）を進んだ。彼は1925年2月2日の朝5時30分に町に到着した。この写真は、カーセンの犬ぞりチームの意気揚々とした到着を撮影したものだ。
リレーチームがネナナからノームまで5日半かけて674マイル（1,085キロメートル）も走破したが、その間アンプルは一本も壊れなかったのだ。
これは主に、30万個の血清が20ポンド（9.5キロ）のシリンダーに詰められ、凍結を防ぐために毛皮で包まれていたためである。写真はウェルチ博士宛てのシリンダー用封筒である。
ノーム血清走行（グレート・レース・オブ・マーシー）は国民の心をとらえた。犬ぞり乗りとその犬たちは、ラジオという新しく人気のメディアで英雄として描かれ、全米の新聞で大きく取り上げられた。
ノームへの最後の区間で銭湯を走っていた犬、バルトは、リンチンチン次いでその時代で最も有名な犬となった。なるとの英雄的地位は、彫刻家フレデリック・ロスがこの有名な犬の救世主の像を作ったことで、この犬に永久的な記念碑を与えた。
1925年12月17日に奉納されたこのブロンズ像は、ニューヨーク市のセントラルパークに展示されている。バルト自身は1933年に亡くなった。
この犬は、1995年のアニメアドベンチャー映画「バルト」でさらに不滅の存在となった。俳優のケヴィン・ベーコンが主役の犬の声を担当した。ホブ・ホスキンス、ブリジット・フォンダ（エリック・ストルツと一緒の写真）、ミュージシャンのフィル・コリンズも声を担当した。この映画は、2つの続編「バルト 新たな旅立ち」（2002年）と「バルト 大空に向かって」（2005年）を生み出した。
1925年にアラスカで起きた出来事を基にしたさらなるプロジェクトが作られた。「ザ・グレート・アラスカン・レース」では、ブライアン・プレスリーがレオンハルト・セッパラ役、トリート・ウィリアムズがウェルチ博士役で主演している。
「トーゴー」はレオンハルト・セッパラと彼の名の知れたそり犬を中心に描かれている。主演はウィレム・デフォーとジュリアンヌ・ニコルソンである。
一方、毎年恒例のアイディタロッド犬ぞりレースは。アンカレッジからノームまでを走り、938マイル（1,510キロメートル）におよぶ世界最長のレースである。チームは、100年前のノーム血清走行（グレート・レース・オブ・マーシー）の参加者が経験したような、吹雪、氷点下の気温、強風の中を走ることがよくある。
出典: (Alaska State Archives) (Britannica)
1925年にアラスカ州の町ノームに血清を届けた英雄的な作戦とは？
ノーム血清走行「The Great Race of Mercy （ザ・グレート・レース・オブ・マーシー）」は100年前に開催された
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1925年初頭、アラスカのゴールド・ラッシュの町ノームでは、ジフテリアの大流行により全住民が死滅する恐れがあった。抗毒素が手元になかったため、切実に必要とされていた薬を、米国で最も過酷な荒野を犬ぞりで運んでもらうというアイデアが提案された。その後に起こった出来事は、米国史上最も英雄的で感動的なエピソードの一つとして今も語り継がれている。
では、血清は無事に引き渡されたのか？このギャラリーをクリックしてノーム血清走行（またはザ・グレート・レース・オブ・マーシー）として知られるようになったこのリレーについてさらに詳しく見てみよう。