古くから存在してはいたものの、これまで良く実態が知られていなかったあるウイルスが南米で増加している。 オロプーシェ熱は、直近6か月間だけで数千人もの感染者を出した。そのほとんどは南米で発生しているが、今回、ヨーロッパでも新たな感染が確認された。
オロプーシェ熱とは? 感染経路は何だろうか。予防の可否は?脅威となり得るこのウイルスについて、このギャラリーで学ぼう。
1955年にトリニダード・トバゴで初めて確認されたオロプーシェ熱は、オロプーシェウイルス(OROV)によって引き起こされる病気。このウイルスは熱帯および亜熱帯地域でその突発的な流行が心配された。
オロプーシェウイルスは、1955年、トリニダードの街オロプーシェで患者の血液から初めて確認された。その後、オロプーシェ熱は主に中南米で勃発している。
アメリカ大陸の熱帯地域(アマゾン流域)、ブラジル、ペルー、パナマ、トリニダード・トバゴなどの国々で確認されている。国際旅行、気候変動などにより、感染拡大のリスクが高まっている。
主に感染した昆虫に刺されることで人に感染するが、蚊による感染は珍しいようだ。ドナーの感染による輸血や臓器移植でも感染する。
オロプーシェ熱の感染原因となる虫は、熱帯および亜熱帯地域に生息している。河川敷、沼地、朽ちた草むらなどの湿った環境で繁殖する。
デング熱と類似している。突然の高熱、関節痛や筋肉痛、激しい頭痛などの症状がある。めまいや吐き気を伴う発疹が現れる場合もある。
潜伏期間は、例えば感染した虫に咬まれてから4〜8日。 発症期間は重症度によるが、症状が現れてから約1週間続く。
オロプーシェ熱は通常治療を受けなくとも自然と治癒するものだが、免疫不全や持病があると合併症を引き起こす恐れもある。
髄膜炎や脳炎などがあり、長期にわたる神経障害を引き起こす恐れがある。 これらは珍しい合併症だが、この病気をあなどってはいけない理由になっている。
診断は、特にオプローシェ熱が勃発している地域では、臨床症状に基づいて行われる。しかし、他のアルボウイルス感染症と見分けるには、検査の必要がある。
デング熱やジカウイルス感染症などと類似しているため、診断は難しい。医者は渡航歴の確認をすることで、晒された可能性のあるウイルスを特定することがある。
オロプーシェ熱に特段効く抗ウイルス剤はない。対症療法が中心となる。
オロプーシェ熱に対するワクチンがないため、殺虫剤によってブヨや蚊の発生を防いだり、虫除けや蚊帳などで身を守るしかない。
今年に入ってから、8,000件以上の感染が南米で確認されている。この記録は、2023年の倍以上となる。
致死率は非常に低く、これまでのところ死亡例は2件しか報告されていない。ブラジルでは7月25日、バイア州の若い女性2人がオロプーシェウイルスによる初の死者となったと報告された。
最近、ヨーロッパに戻った観光客19名からオロプーシェウイルスが検出され、スペイン、イタリア、ドイツで感染が報告された。いずれも感染が拡大しているキューバとブラジルへの渡航歴があった。
欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、オロプーシェウイルスの感染が拡大している国として、ブラジル、ボリビア、コロンビア、ペルー、キューバを挙げている。これらの国に行く旅行者は、気を付ける必要がある。
最近のヨーロッパの感染例に見られるように、グローバル化、海外旅行などによりウイルスが広がるリスク要因が増えている。感染が広がる地域から旅行者が、別の地域にウイルスを持ち帰ってしまう。
ECDCは、妊娠中の女性は死産、先天性欠損症などのリスクがあり、通常よりこのウイルスが高リスクであるとの懸念を示した。
ブラジルでは、ペルナンブコ州、バイア州、アクレ州で、母親から胎児に感染した疑いのある8件の症例を調査中である。
オロプーシェウイルスの生物学的知見と治療法について研究が進んでいる。現在のところ、ワクチンはない。しかし分子生物学の発展は目覚ましく、今後ワクチンや治療薬が開発されることが期待されている。
オロプーシェウイルスは、ナマケモノやさまざまな動物にも感染し、南米の地元では「ナマケモノ熱」とも呼ばれる。これらの動物がウイルスを維持し、人間への感染が拡大する。
オロプーシェ熱を抑え込むのは、その感染力とワクチンの不足により難しい。都市化や、森林伐採は、人間とウイルスを保有する動物との接触機会を増加させ、感染のリスクを高めている。
貧困層など、社会的に弱い立場にある人々は、医療サービスへのアクセスも困難であるため、感染のリスクが高い。公衆衛生を管理するにあたり、こうした社会的格差についても考慮する必要がある。
世界保健機構(WHO)や汎米保健機構(PAHO)などの機関は、医療に関するさまざまな情報を提供している。国際的に勃発するウイルスに対処するには、こうした機関の関与が不可欠である。
技術の進歩(地理情報システムやモバイルヘルスツールなど)により、オロプーシェウイルスの追跡も可能となった。これらの技術により感染源を特定し、感染予防に備えることができる。
世界的に、より一層の警戒が必要であると専門家は警告する。海外旅行をする際や、身近な人が旅行に行く際は、あらゆる事態に備えておこう。
出典: (The Telegraph) (The Lancet) (WHO) (CDC) (ECDC)
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古くから存在してはいたものの、これまで良く実態が知られていなかったあるウイルスが南米で増加している。 オロプーシェ熱は、直近6か月間だけで数千人もの感染者を出した。そのほとんどは南米で発生しているが、今回、ヨーロッパでも新たな感染が確認された。
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