いつ、そしてなぜ、私達はスリッパを履き始めたのか？ -

私たちのほとんどが持っているスリッパ。お気に入りの家庭用アクセサリー、また軽くて快適な履物としてスリッパは機能し、一日中立ちっぱなしの疲れた足を支えてくれるのだ。しかし、スリッパは最近できたのもではない。実際、私たちは何千年もの間、何らかの形でこのタイプの靴を履いてきたのだ。それでは、それらは正確にどこからやって来たのだろうか、そして誰が最初にそれを履いたのだろうか？

ギャラリーを通して、ぴったりと心地の良い履物をさらに詳しく見ていこう。

© Getty Images

スリッパの起源 -

スリッパを履くトレンドを始めたのは中国人だった。彼らはこの種の履物を、早くも紀元前4700年には履き始めたのだ。この靴は綿またはイグサ織物で作られ、革の裏地がたっぷりと施され、龍や山などの権力の象徴が描かれたシンプルな靴だった。ずっと後になって、この写真のような、シルクと金属糸で刺繍された非常に美しく精巧なスリッパを作るためにサテンが使用されるようになった。その歴史は清朝(1644〜1911)にまで遡る。

© NL Beeld

ローマの鹿革のスリッパ -

2008年、イギリスのボスコム・ダウンで働く考古学者が石の棺を発掘した。中には子供をあやす女性の骸骨があった。二人とも鹿革のスリッパを履いていたが、これはかなり地位のある人にしか与えられない高級品だった。写真は、2世紀のローマのモザイク画で、貴族の女性が2人の女中によって服を着せられている様子を示したものだ。モザイク画の左上に見えるスリッパをはじめとする食器類や女性の装飾品によって、その情景がリアルに表現されている。

© Getty Images

ネイティブアメリカンのモカシン -

ネイティブアメリカンインディアンは、モカシンを使用した独自の手法でスリッパを作成した。これらの靴も鹿革で作られており、絹糸、ビーズ細工、ヘラジカの毛、羽根ペンで装飾されることが多かった。デザインには自然の風景が描かれることもあった。

© Getty Images

抑圧の象徴 -

12世紀のベトナムでは、スリッパははるかに邪悪な意味を帯びていた。これらは快適な靴として機能すると言うよりも、捕らわれの象徴だったのだ。裕福な君主の女性召使いがこの靴を履くように作られ、ゆったりとしたフィット感と柔らかいソールで、岩だらけの安定しない地形で奴隷の身から逃れようとするのを防いだのだ。

© Getty Images

捕らわれの身 -

同様に、スルタンのハーレムの人々が履くスリッパも、全く異なる機能をしたものだった。靴の繊細な性質により、一度履いたら再び荒れた地形を逃げて自由の身にはなれないのだ。

© Getty Images

バブージュの起源 -

バブージュ(baboucheあるいはbaboosh)として知られる東洋のスリッパは、おそらく紀元前3400年頃にペルシャで誕生したと考えられている。

© Getty Images

別の観点 -

つま先が誇張され尖ったスリッパ的なバブーシュは、スリッパの製造時に繰り返し洗浄と乾燥が行われ、非常に快適なものだった。

© Getty Images

何世紀にもわたる魅力 -

当時魅力的なファッションアクセサリーだったバブーシュは、今もなおエジプト、モロッコ、イラン、インド、パキスタンなどの場所で着用されている。

© Getty Images

ゴンドラの船頭の靴 -

イタリアでは、このスリッパは16世紀にベネチアのファーレーン（ゴンドラの船頭の靴としても知られる履物）として非常に人気を博した。ファーレーンの初期の例では、ゴンドラの船頭が滑らないように、古い自転車のタイヤから作られたゴム底が特徴だった。そして、ベルベットの上側は古いドレスやカーテンから作られていた。

© Getty Images

ベネチアンファーレーンスリッパ -

しかし、イタリアはファッションの国。ゴンドラの船頭の靴は瞬く間によりスタイリッシュで洗練されたものに進化し、ファッションの象徴となったのだ。1800年代初期までに、ベネチアンファーレンスリッパは人気の履物となった。

© Getty Images

ラ・ドルチェ・ヴィータの象徴 -

今日でも、このスリッパはベネチアの独特さがあり、ゴンドラの船頭だけでなく、幅広い層から愛されているラ・ドルチェ・ヴィータの象徴である。

© Getty Images

シャランテーズフェルトスリッパ -

ヨーロッパの他の地域では、フランスの上流社会が宮廷の礼服の一部として豪華な刺繍が施されたスリッパを履いている様子が見られた。フランスのシャラント地方が発祥のシャランテーズフェルトスリッパは、17世紀、ダンディなルイ14世の統治期間に作られた。

© Getty Images

ヴィクトリア女王のスリッパ -

その後海峡を渡り、若きヴィクトリア女王が、金の編み込みと金のロゼットで装飾された、複雑な刺繍が施されたクリームサテンのバレエスタイルのスリッパで話題を呼んだ。各スリッパに取り付けられた白いリボンをつけることにより、非常に個性的なものとして完成させたのだ。

© Getty Images

針仕事の証 -

ビクトリア朝の女性全般にとって、スリッパは刺繍の腕を見せる機会を作った、この写真は、若い男の子のために特別に作られた一足である。

© Getty Images

アメリカンイブニングスリッパ -

ビクトリア朝のスリッパは海を渡って米国に伝わった。19世紀の最初の30年間は、明るい色とパステル色の両方のイブニングスリッパがよく履かれていた。メトロポリタン美術館によると、この靴のグラスグリーンの色は、1840年代までにイブニングウェアとして残っていた数少ない明るい色の一つだったそうだ。

© Getty Images

つま先のライン -

イブニングスリッパのデザインが、その後一般的に履かれるようになった特徴的な幅広の四角いつま先に進化したのは1840年代のことだった。

© Getty Images

富裕層が履く -

イギリスでは、スリッパはまだ富と特権の象徴として着用されていた。これらの赤いベルベットの毛皮の裏地がついたスリッパは、1840年代に若きアルバート・エドワード王子、後のエドワード7世が所有していたものだ。

© Getty Images

プリンス・アルバートのスリッパ -

アルバート王子のスリッパが登場したのは、ヴィクトリア女王の統治時代であった。君主の配偶者に因んで名付けられたこのスリッパは、一般的に、豪華なディナーバーティーを主催するビクトリア朝の紳士が着用するスモーキングジャケットと合うようにデザインされた頑丈なスリッパである。写真は、2022年5月19日にロンドンで行われた「トップガン：マーヴェリック」の英国プレミアとロイヤル・フィルム・パフォーマンスに出席し、戦闘機のデザインが刺繍されたベルベットのアルバートスリッパを履いているケンブリッジ公ウィリアム王子である。

© Getty Images

政治的なモチーフ -

モノグラム入りのプリンス・アルバートのスリッパを定期的に履いていた有名人の1人は、イギリスの政治家サー・ウィンストン・チャーチルだった。この写真は、1955年毛皮の裏地がついたコートと靴を着てダウニング通り10番地に到着した彼の様子である。

© Getty Images

スリッパの文化的重要性 -

スリッパは多くの国で重要な文化的役割を果たしている。例えば、日本で言えば、寺院に到着した時、訪問者が敷居を越える前に履き替えられるように、玄関や縁側にスリッパが置かれている。また家を訪れる人も、玄関で靴を脱ぎ、きちんとした「上履き」に履き替える必要がある。

© Getty Images

聖地を踏む -

アラブ系イスラム教徒はモスクに入る際に靴を脱ぐ必要がある。伝統的に、非イスラム教徒のゲストには入場前にスリッパを履いてもらう。この珍しい1920年代の写真は、エジプトのカイロにあるモスクに入る前に、西洋人女性観光客の足にスリッパを結びつける係員が写っている。

© Getty Images

ふわふわのスリッパ -

50年代には、女性用のふわふわスリッパは登場した。これは、驚くほど心地が良く快適な家庭用の履物で、現在でも人気がある。

© Getty Images

教皇スリッパ -

教皇は通常、絹と金蘭で作られた屋内用の「典礼用スリッパ」と屋外用のローファーのような靴（写真）の2種類の赤い靴を履いている。赤いスリッパはローマ帝国の時代から伝統的に教皇によって履かれてきたのである。

© Getty Images

黄色いレンガ道を進もう -

最も有名なスリッパの一つは、1939年の映画「オズの魔法使い」でジュディガーランド役のドロシー・ゲイルが履いたものである。これらは、ロンドンのヴィクトリアアンドアルバート博物館で開催されるハリウッドコスチューム展で展示されている。

© Getty Images

もしぴったり合えば... -

同様に有名だが、これは厳密にはスリッパではない。シンデレラが履いているガラスの靴だ。現代の言葉で言えば、彼女の靴はきっとガラスのハイヒールと呼ばれるだろう。いずれにせよ、映画「シンデレラ」(2015)に登場するこのオリジナルのスワロフスキークリスタルシューズは間違いなく美しいだろう。

© Shutterstock

綺麗に掃除しよう -

最も実用的な用途では、このスリッパはモップとして着用できるのだ。タイでは、ブティックの店主たちはフロアを掃除しながら足を引きずって歩き回って準備をしている。

© Getty Images

社交家のスリッパ -

ある有名人は、自由と解放の象徴としてスリッパを収集していた。アメリカの社交界の名士であったリタ・デ・アコスタ・リディグ(1875〜1929)は、自称「世界で最も高価な靴屋」であるイタリア人デザイナー、ピエトロ・ヤントルニーと友人であった。ヤントルニーは、彼の著名なクライアントに、足のかかとの周りにバック部分や締め付けがない履物のスタイルであるミュールを含む数多くの靴を手作りした。

© Public Domain

女性の寝室用スリッパの暗示 -

ヤントルニーのミュールは、前述のバブーシュからヒントを得たものだ。その結果として生じるハーレムへの暗示は、特に寝室のスリッパに適しており、リディグはそのスリッパを彼女の特徴的なハーレムスタイルのドレスと併せてよく履いていた。リディグ本人の洋服だんすはメトロポリタン美術館のコスチューム研究所開始の基礎となった。

© NL Beeld

デザイナースリッパ -

今日、私たちのほとんどは質素なスリッパを一足持っている程度だが、足と財布が本当に求めているなら、今でもまだ高級なスリッパを買うこともできるのだ。写真は、ニューヨークで展示された、ロブ・プルイットがデザインしたジミーチュウの有名なスリッパである。プルイットの有名なパンダが刺繍されている。

出典: (BBC) (The MET) (mahabis) (Ernest journal) (Crockett & Jones) (Broadland Slippers) (Piedàterre Venezia) (Town & Country) 

© Getty Images