アーサー・キットとはどのような人物で、なぜ彼女はCIAに中傷されていたのか？ -

アーサー・キットは、音楽、映画、テレビ、演劇、キャバレーで活躍した国際的な歌手だった。彼女はまた、社会活動家としても熱心に活動していた。

猫のようなカリスマ性と非常に特徴的な歌声で知られる彼女は、極貧から這い上がり、1950年代から60年代にかけての偉大まエンターテイナーの一人となった。しかし、彼女は官能的な声で有名になった一方で、エンターテイメント業界は彼女が本音を語ったことを厳しく非難した。さらに、中央情報局は組織的中傷に乗り出し、この歌手は10年間米国から事実上追放された。では、アーサー・キットはどのような発言をして、体制側からこれほど残酷な反発を招いたのだろうか？

ギャラリーをクリックして、このユニークなアメリカ人歌手兼女優についてさらに詳しく見てみよう。

© Getty Images

幼少期 -

アーサー・キットはアーサー・メイ・キースとして、1927年1月17日にサウスカロライナ州のノースという小さな町で生まれた。彼女の母親はチェロキー族とアフリカ系アメリカ人の血を引いており、彼女が知らない父親は白人だった。

© Getty Images

貧困の中で育った -

キットは母親が家を出て行った後、主に親戚に育てられ、極貧の中で育った。混血のため、彼女は黒人社会に受け入れられず、幼少期は虐待に悩まされた。

© Getty Images

新進気鋭の才能 -

キットは叔母の元で暮らすためにニューヨークのハーレムに移り住み、最終的にニューヨーク舞台芸術学校に入学した。キットはダンサーとしての天性の才能により奨学金を得てキャサリン・ダナムに師事し、後にダナムのダンスグループに参加した。この新進気鋭のエンターテイナーはアメリカ、メキシコ、南米、ヨーロッパをツアーし、その後フランスのパリに定住した。

© Getty Images

重大な転機 -

パリでは、キットはナイトクラブの人気歌手兼ダンサーとなり、フランス語を習得した。そして、パリで活動していた時に、俳優兼監督のオーソン・ウェルズに見出された。

© Getty Images

「世界一エキサイティングな女性」 -

1950年、ウェルズは自身の作品「フォースタンス博士」でキットを「トロイのヘレン」役に起用した。彼は後にキットを「世界一エキサイティングな女性」と評した。

© Getty Images

ブロードウェイ出演 -

2年後、アメリカに戻ったキットは、ブロードウェイのレビュー「New Faces of 1952（ニュー・フェイシズ・オブ・1952）」に出演した。

© Getty Images

「New Faces of 1952（ニュー・フェイシズ・オブ・1952）」 -

この作品で彼女は、今でも彼女の代名詞となっている曲「Monotonous（モノトナス）」を歌った。彼女の完璧なパフォーマンスは、彼女のアメリカでの音楽キャリアのスタートに役立った。

© Getty Images

スターになる -

1950年代初頭の更なるレコーディングには「ウスクダラ」、「C'est si bon（セ・スィ・ボン）」、「I Want to Be Evil（アイ・ワォント・ビー・イーヴィル）」、そして長年愛されているホリデークラシック「サンタ・ベイビー」などがあり、キットはスターになった。

© Getty Images

映画界でのキャリア -

キットの成功は、全国のナイトクラブや劇場への出演で続いた。そして、間も無くハリウッドが彼女のドアをノックした。

© Getty Images

「The Mark of the Hawk（原題訳：鷹の刻印）」 (1957年) -

キットは実は1948年に「迷路」でクレジットされていないダンサーとして映画デビューしていた。彼女の最初の主演は1957年の「The Mark of the Hawk（原題訳：鷹の刻印）」で、シドニー・ポワチエと共演した。この映画は、黒人俳優が主役を演じた最初の主流ハリウッド映画の一つだった。

© Getty Images

「セントルイス・ブルース」 (1958年) -

翌年、彼女はジャズとブルースの巨匠ナット・キング・コール、パール・ベイリー、キャブ・キャロウェイ、エラ・フィッツジェラルドらと共に「セントルイス・ブルース」に出演した。

© Getty Images

「Anna Lucasta（原題訳：アンナ・ルーカスタ）」 (1958年) -

1958年、キットはサミー・デイヴィスJr.と共演した「Anna Lucasta（原題訳：アンナ・ルーカスタ）」にも出演した。これはデイヴィスにとって初の長編ドラマ映画出演であり、2人のエンターテイナーの生涯にわたる友情を固めるものとなった。

© Getty Images

雑誌の特集 -

アーサー・キットは映画の出演の合間にもヨーロッパ、特にイギリスでのツアーを続けた。フォトジャーナリズムの先駆的雑誌「ピクチャー・ポスト」は1956年に彼女の特集記事を掲載し、その宣伝効果で彼女はイギリスの観客に知られるようになった。

© Getty Images

多才なエンターテイナー -

1950年代を通じて、キットはレコーディング、映画、テレビ、ナイトクラブでの活動に従事し、ブロードウェイの舞台にも復帰した。

© Getty Images

結婚 -

1960年6月、アーサー・キットは不動産起業家のジョン・ウィリアム・マクドナルドと結婚した。彼らの結婚は、マクドナルドのビジネス志向のライフスタイルとキットのエンターテイメント業界での華やかなキャリアという対照的な2つの世界を融合させたものである。

© Getty Images

短い家族生活 -

夫妻にはキットという名の娘が一人いた。キットの多忙な仕事のスケジュールとマクドナルドの事業の要求により、すぐに2人の関係に緊張が生まれた。当時の社会的圧力と人種的偏見が2人の結婚生活に更なる複雑さをもたらした。2人は1963年に別居し、1964年に離婚した。

© Getty Images

テレビでの成功 -

1960年代、アーサー・キットはテレビでの仕事が増えていった。1965年、彼女は「アイ・スパイ」のエピソード「The Loser（ザ・ルーザー）」に麻薬中毒のキャバレー歌手として出演し、その演技でプライムタイム・エミー賞にノミネートされた。

© Getty Images

キャットウーマン -

しかし、彼女の最も有名なテレビドラマ出演は、テレビシリーズ「バットマン」（1966年−1968年）のキャットウーマン役だった。

© Getty Images

代表的なテレビ出演 -

バットマンとの複雑な愛憎関係に巻き込まれる、猫をモチーフにした宝石泥棒を演じた彼女は、ほっそりとした容姿と息を切らして喉を鳴らすような声でこの役を自分のものにした。

© Getty Images

社会活動家 -

アーサー・キットは、そのキャリアを通じて、数多くの社会活動に積極的に取り組んできた。彼女は、恵まれない人々や権利を奪われた人々、特に都心部に住む人々への支援を声高に訴えた。

© Getty Images

知的で博識 -

1956年、彼女はディープサウスで無一文で育った悲惨さを記録した回想録「Thursday's Child（原題訳：木曜の子供）」を出版した。キットは哲学、政治、その他の文化面に精通していた。

© Getty Images

国際女性平和自由連盟 -

1966年、彼女はロサンゼルスのワッツ地区の恵まれない若者のための非営利団体、キットビル青少年財団を設立した。また、彼女は子供たちをトラブルから守るためにレクリエーションエリアを作ったワシントンD.C.を拠点とする青少年団体、「Rebels with a Cause（レベルス・ウィズ・ア・コォーズ）」を支援した。また、国際女性平和自由連盟のメンバーでもあった。

© Getty Images

ホワイトハウス昼食会 -

アーサー・キットは青少年活動が評価され、1968年にリンドン・B・ジョンソン大統領の妻レディ・バード・ジョンソンからホワイトハウスでの昼食会に招待され、少年犯罪の原因について話し合った。

© Getty Images

ベトナムにおける米国の役割を批判 -

昼食会の間、ファーストレディはキットにベトナム戦争について尋ね、彼女はこう答えた。

「この国で最高の人たちを、撃たれて、潰されるために送っているんですもの。子供たちが反抗して、草を吸ったりするのも不思議じゃないわ」

© Getty Images

「サディスティックな色情狂」 -

キットの辛辣で攻撃的な発言にジョンソン夫人は泣き崩れたと伝えられている。何が起こったのかを聞いた中央情報局はキットを「サディスティックな色情狂」と決めつけ、彼女に関する書類を作成した。CIAは後にニューヨーク・タイムズ紙にキットの私生活と家族歴の詳細を公開した。

© Getty Images

キャリアの低迷 -

ワシントン以外では多くの人が彼女の意見を支持したが、この論争をきっかけにキットのキャリアは急降下した。一夜にして米国での仕事は無くなった。

© Getty Images

亡命先でのパフォーマンス -

キットは怒りと困惑で、自分の身に起こったことを「不愉快」と表現した。彼女はその後10年ほど、主にヨーロッパとアジアで働いた。

© Getty Images

ホワイトハウスへの帰還 -

そして1978年1月、キットはジミー・カーター大統領からホワイトハウスに再び招待され、エイブラハム・リンカーンが暗殺された場所であるフォード劇場の修復10周年式典に出席した。

© Getty Images

ブロードウェイに復帰 -

その年の後半、キットはミュージカル「Timbuktu!（ティンブクトゥ！）」でブロードウェイに華々しく復帰し、その功績によりトニー賞にノミネートされた。

© Getty Images

音楽への回帰 -

彼女は1984年に音楽界に復帰し、人気子供向けテレビ番組「ラマだった王様 学校へ行こう！！」で陰険なイズマの声を担当したことで、エンターテイメント業界での功績が認められ、デイタイム・エミー賞（2007年と2008年）を受賞した（キットは死後、2010年「ワンダー・ペッツ」のゲスト出演で3度目のエミー賞を受賞した）。

© Getty Images

晩年 -

アーサー・キットは晩年、ニューヨークのカフェ・カーライル（写真）でキャバレーショーを披露していた。彼女はパリで人気ものだった何十年も前と同じように、観客を魅了し続けた。2008年12月25日、アーサー・キットは亡くなった。享年81歳だった。

出典: (Biography) (Britannica) (The New Yorker) (Regeneration: Black Cinema) (Eartha Kitt) (Europeana)

© Getty Images